一歩ずつ前進してきた日本と急に延びた中国|新幹線事故

中国新幹線事故の件について少しだけ思うことを。

残念ながら鉄道に限らず、交通関係の事故やトラブルは大なり小なり必ず起きる。
本来なら小さな問題から少しづつノウハウを溜め、それを車両改良や運用ノウハウにフィードバックしながらさまざまに改良を重ね、そういった事故・トラブルを出来るだけ少なくなるようにしていく、というのが良いのだと思う。
しかし現在の中国では経済発展が急すぎるあまり、国内鉄道技術の蓄積とのバランスが取れないままで最上の安全技術や運行技術を必要とする新幹線を導入したのがこういう結果に繋がった原因の一つなのではないか。

僕の父は元鉄道マンであり、また、住んでいるのが函館という土地柄もあって、現役キャリアの後半は青函トンネル用の車両開発に携わっていた。
トンネルの運用開始前テスト期間や運用開始後しばらくの間は割と頻繁に車両のトラブルが発生し、その度に夜中でも良く出かけていった事をよく覚えている。特に最初の冬なんかは多かった。

「発生したのはどんな類の問題か」
「何故そのような問題が発生したのか」
「今後その問題を出さない為には何をどう改善すべきか」

恐らくは問題が発生する度にそんな検証を何度も何度も繰り返し、一つ、二つと問題の種を取り除いていったのだろう。

トンネル内の消防設備や避難経路の訓練なんかでは母もよく連行(?)されていた記憶がある。

その甲斐あってかどうかは分からないけど、開通以来、未だに交通機関用トンネルとして世界最長の長さを誇る青函トンネルにおいて、運用開始後に乗客やスタッフの人命に関わる事故について聞いたことはない(開通工事中の事故犠牲者は34人)。

鉄道運行の安全を支える技術スタッフ育成やノウハウ蓄積を戦後から少しづつ着実に行ってきた日本。
一方、そういった人材の用意/育成及びノウハウの蓄積をする時間的余裕がないくらい急な発展を遂げてしまった中国。
その違いが今回の大事故に繋がってしまったのだと思う。もちろん他にも原因はあると思うけど。

車両や敷設線路、信号機などの管制機材等はお金を出せば買えるけど、それらを「どう使えば安全に運行できるのか」という知識や知恵はなかなか買えない。日本国内で運用しているそれがが中国でも全て上手く機能することはないからだ。
地質が違えば線路の敷設方法も違うだろうし、気候が違えば車両の仕様やメンテナンス方法も違ってくる。乗客数が違えばダイヤの組み方も違うだろうから、車両のローテーションやメンテナンス内容、消耗部材の交換頻度、そいうところに差が出てくる。
そういった事は時間を掛けて現地の人間達が目と手と肌で覚えていかなければいけないのだと思う。日本で父達がやってきたように。

なんでもかんでも模倣と札束で解決できると思ったら大間違いという顕著な例の一つになった今回の事故。
貴重な検証材料を埋めたり掘り返したりしてるようでは今後も定期的に事故は起きるだろうと僕は考えている(ただし次回以降は今度こそ隠蔽と報道規制で表に出ることはないかもしれないが)。

今回の事故は「教訓」や「糧」というにはあまりに甚大ではあるけれど、
それでも今後も新幹線運行を続けるつもりであれば、一つずつ問題を解決しながら一つずつ安全性を積み重ねるしかないのだと思う。

そしてそうやって積み上げた安全性は、実際のところ新幹線だけではなくて中国全体の国際的な信頼の積み重ねにも結びつくという事に彼らが気付いてくれればいいのだけれど、と思う。

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