我が家の家紋ができるまで|マーシャリング

今日の札幌は風が強くて、掃いても掃いても窓から葉っぱと花びらが舞い込んでお困りのフジカワです、こんにちは。でも涼しくて良いですね。このくらいだと仕事も捗ります。

家紋って結構適当

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さて、皆さんは自分の「家紋」をご存知ですか?
僕は大学の課題テーマで「自分の家の家紋」を扱うまでは知りませんでした。
実家に電話で問い合わせて家紋の名前を頼りに学校の図書館の資料で調べたのです。
後から良く考えると、お墓参りの時の墓石に彫ってあるので見てはいたのですが、まるで覚えていませんでした。資料で発見したときに「あぁ、そういえばこんなだったけ」とは思いましたが。

そんな家紋、良く調べてみると使う時のルールは結構緩いようですね(笑)。大体は
・父方の家紋を継ぐ
・女性は嫁ぎ先の家紋を使う
・女性は実家の女性が代々引き継いだ紋を使う場合もある(女紋)
などという感じのようですが、
・自分の家系の家紋を知らない、知っているけどデザイン的に好きではない
という理由で好きなものを使ったり、新しくデザインしたりする方もしているようです。

つまり、名字や印鑑のように役所に届出をする必要もなく、現在となっては自分の血族の発祥をさかのぼるキーとしての役割も非常に薄くなってしまっているため、「各個が自由にやればいんじゃない?」と。で、「特に興味がないのであれば、親のを引き継げば?」そして「もし分からなければ既存のものから好きなのを選んでもOKよ」ってのが現状のようです。

じゃあ好きにやってみようかな

というわけで、好きにやってみます。実は上に書いた大学の課題テーマで家紋を扱った時に一度、
「オリジナル家紋」なるものを作ってはいるのです。が、探したのですが発見不可能でした。あまりのダサさに廃棄してしまった模様です。がっかり。
なのでイチから作り直します。といっても今回はちゃんとテーマが決まっています。それは
「嫁の家紋との融合」です。

二つの家紋はこんな感じ

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左が僕の家の家紋、右が奥さんの。
それぞれ
「丸に木爪(まるにもっこう)」
「丸に三つ柏(まるにみつがしわ)」
という名前がついています。
ちなみにこれは結婚式の時に作ったシールのデザインで、招待状やら、当日の席札、引き出物など、色々と使った思い出データ.aiです(僕はともかく、奥さんの名前はアレなので今回は消したものを掲載)。
さて、この二つを上手い具合に融合するというのが今回のテーマ。

他国では

日本の家系を示すこの家紋は本来そのままの形で引き継がれてきていますので、意図的に手を入れない限りはデザイン変更は行われないまま現在に至っています。一方、ヨーロッパでは家系を表すものとして紋章(エンブレム)というものが存在します。車のマークや映画等でも見かけたことがあるかもしれません。
こちらは、婚姻関係(や主従関係、戦争による領地合併)を結ぶことによって「マーシャリング」と呼ばれる方法で複数の紋章がデザイン的に融合され、親から子へ、子から孫へと少しずつその姿を変えながら受け継がれていきます。私もこの辺については詳しくはありませんので興味のある方は調べて(そして僕に教えて)頂きたいのですが、ま、このマーシャリングを家紋でもやってみよう、ということです。

ルール

さて、ただくっつけるにもルールがあります。好き勝手やってもかっこ悪くなりそうです。というわけで、以下のような部分からずれないようにデザインにおけるガイドラインを設定。

モダンにはしない

現代的な解釈で作り直すという考えもありますが、今回はしません。未来を見越したデザインも楽しいし斬新ですが、「家紋」という昔のデザイン哲学をできるだけ引き継ぐようにします。

シンプルを保つ

文献などで家紋一覧を見るとわかりますが、その多くは実にシンプルです。印刷や転写の技術的な制約も理由だと思いますが、小さなサイズでもデザインが潰れなかったり、余計な装飾をそぎ落とす「引き算のデザイン」という考え方が家紋デザインのベースになっているのでしょう。実にシンプルです。ミニマムデザインの一つの解と言っても良い位ですね。というわけで今回もその考え方は大切にします。

「家紋」としての違和感が無いように

上の2つのまとめ的ですが、結果として「家紋としての違和感がないように」したい、と。今回のデザインが家紋集に載ったときに、「ん?これ、何か浮いてない?」とならないように。「え?これ、オリジナルなの?昔から引き継いでるのかと思った」と思ってもらえれば成功です。

というわけで早速とりかかります

前置きが随分と長くなりましたが、今回のプロセスです。着手してから完成までの途中経過案を見ていきましょう。

要素抽出

まずは2つの家紋のデザイン要素を抜き出します。
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以外に少ないですね。左は僕の、真ん中の丸は共通、右の葉っぱ(柏)は奥さんの家紋の要素です。
丸は共通なので採用。左右の要素を上手く融合していきたいところ。

とりあえず全部のせ

色々と考えてもしょうがないので、まずは欲張って全要素を盛り込んでみましょう。
柏の要素にある葉のふくらみを木爪のに加えてみます。木瓜はボケという読み方で花の一種として存在していますが、この家紋に使われている木瓜は花ではなく「鳥の巣」がモチーフになっているという説もあります。
話戻して、ではデザイン。要素をふんだんに盛り込みます。具体的には、柏の葉のシルエットと葉脈を木爪のあらゆるパーツに適用させます。そーれ。
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…これは無い。
キャベツじゃん。
却下。

少し引き算

まずは幸先の良いスタート。ものはやってみないとわからない事も多いのです。
ま、十中八九ダメだろうな」とは思っていましたが、ここからがはじまり。
葉脈の線がキャベツになった理由だと思います。いや、間違いない。
というわけで、まずは内側の葉脈を取り除いてみましょう。
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うん、まだ駄目ですね。
キャベツから脱しきれていません。

違うところを引いてみる

それでは今度は葉脈を内側ではなく、外側のを取ってみます。
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うん、雰囲気は悪くありません。
ただ、サザエさんの頭が付いているようでちょっと気持ちが悪いですね。

葉のふくらみの形を変更

装飾的な要素としての葉脈の線が無くなったことで、シルエットの汚さ(サザエさんの髪)が気になります。
平面デザインにおいてシンプルな方向に持っていくには「線」を減らすか「点」を減らすかのどちらかになります。もちろん「線の組み合わせ」である「面」を減らすのも然りです。特に曲線というのは直線よりもずっと目につくものなので、葉の「もこもこ」を簡略化することでデザインは随分シンプルになりそうです。では実行。
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おお、いいですね。大分落ち着いてきました。

上下の要素のサイズを調整

大分雰囲気は良くなってきましたが、丸の内側の空間がちょっと狭すぎる感じがします。日本のデザインには昔から「空間のデザイン」という考え方があります。「要素の無い空白スペースもデザインの要素となる」という考え。「余白をデザインする」という事です。そんなことをぼんやり考えながら今の案を見ていると、どうも窮屈な印象を受けます。特に図案を縮小したときにその感じは強くなります。と言うわけですこしだけ上下の要素を整形します。
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うん、すっきりしました。

もうちょっとだけ調整

大分すっきりしましたが、どうもあと少しな気がします。これはもはや微調整というか、個人の感覚的な話になってくるのですが、僕のものなので僕の好きにします。というわけであと少しだけ調整。
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うん、わからないでしょ、そう思います。僕の感覚的な話なので。でもここで手を抜くと最後の最後に全体がしっくりこなくなり、その段階まで行ってしまうと「どこがしっくりこないか分からない」という状態になってしまいます。なのでこういう部分は早めに手を打っておくのです。

さてそれでは内側です

中の柏の葉が気になります。外側と同じ理由(サザエさん)がどうもモタモタしているように感じます。狭い空間で、かつ、周りにも曲線の囲いがあるため、空間がごちゃごちゃしているように感じられるのです。「余計な線が多い」状態です。なので、一度外側と同じように内側も葉のふくらみを減らしてみましょう。
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やはりすっきりとしていますね。どうやらこちらの方が良いようです。

葉脈の位置を調整

紋の中心部分がギチギチです。葉脈の線が集中しすぎることが原因です。なので四方に向かっている葉脈をそれぞれの外側に向けてすこしだけ広げてみます。
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はい。良いですね。落ち着きました。紋を眺めていてもソワソワしません。
なんかこう、「しっくり」という言葉がしっくりきます。

ちょっとだけ再挑戦

ここまで引き算を繰り返してきたデザイン作業ですが、ここで始めて加算をします。
途中でそぎ落とした内側の葉のもこもこを再度付けてみます。前回のものとは別に改めて作図しなおし、できるだけ落ち着きのある曲線を心がけます。それがこれ。
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うーん、悩ましい。悪くない。でも「良い」と言えるだけの自信がない。
ちょっと長く作業しすぎて見慣れてきたせいで、その辺の判断が難しくなってきたようです。

時間を置いてもう一回一つ前に戻す

ちょっと時間を置きましょう。一日置いて目をフラットな状態に戻して再度確認。
一度、一つ前の状態に戻してみます。
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こっちの方が良いですね。空間と面の均衡、曲線の美しさ、点の量など、色々と「良い」と思う理由や根拠があるのでしょうが、それより何より僕の感覚が「良い」と言っています。なのでこれで完成とします。

紋の名前

別に何かに掲載されるわけではないので名前は無くても良いのですが、気持ち的に命名。
「丸に木爪(まるにもっこう)」+「丸に三つ柏(まるにみつがしわ)」
=「丸に柏木爪(まるにかしわもっこう)」
以上。

作業を終えての感想

うん、終わって思ったのは「やっぱり落ち着くところに落ち着いたか」というところです。始める時に大体予想していたものにほぼ近いものにたどり着きました。むしろそれよりもそぎ落とした感じです。もう少し原型から離れたところに着地するかと思っていたのですが、大分出発地点の原型に近しいものになりました。考えられる理由は2つ

家紋のデザインロジックの完成度が非常に高い

昔の「家紋職人」達が家紋を作る際の基準として考えていたデザインロジックの完成度が非常に高く、やればやるほどその引力に戻されている感じがありました。つまり、「より線/点を少なくしてシンプルな形に」という基本的なロジックがそこにあり、突飛な要素を盛り込むのが非常に難しかったということです。紋の活用場所と活用方法を考えたとき、当たり前に考えるべき要素なのですが、実際にやってみることで改めて実感した次第です。

僕のデザイン力の不足

それに併せて僕のデザイン力不足も理由に挙げれられます。つまり、「新しい概念や解釈、発想」が出来なかったので、先にあげた「先人のデザインロジック」を超える「ロジック」を組み立てられなかったということです。「ブレイクスルー」が無かったという事ですね。ま、これについては最初に作ったルールの段階ですでに「今回はそのようなアプローチをしない」と宣言していたようなものなので当たり前の結果ではありますが。

まとめ

というわけで長々とお送りしてきた「我が家の家紋ができるまで」ですが、これが終わりではありません。
えー、終わらせたいところですが、恐らく微調整は続きそうです。企業IDではありませんが、少しづつマイナーチェンジを繰り返しそうです。多分作業が完了するのは僕が死ぬときかな。その時に納得したデザインになっていれば、墓石に使います。でも一族の墓に入ることになったらこの家紋は僕一代限りです。息子が使いたいって言ったら譲りますが。
まー、なかなか自分のうちの家紋を見る機会は少ないと思いますが、ご存じない方はちょっと調べてみて、興味があったらリデザインしてみるのも面白いかもしれません。
どこかで、「家紋デザインコンテスト」とかやらないかなぁ。審査員難しそうだ(笑)。

3個のコメントあるよ

  1. おもしろい。実におもしろい。
    君のデザインのやり方の一角を少し見れたことが収穫w
    私は実家の家紋をそのまま受けツグつもり。
    でもこういうの、いいね。生涯デザインだね。すばらしい。
    しかしながら、家紋てすごいね。洗練されてるんだね。やっぱ。

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