「今あるコンセプトの伸展」と「新しいコンセプトの提案」

昨夜から会社の引き出しが開かなくなってしまい、本気で焦ったフジカワです。別に生ものを隠していた訳ではないのですが、こんなことで本気で焦るなんて自分の器の小ささを再確認しました。

女心と秋の空と消費者ニーズ

企業は作ったものを売らねばなりません。売れない商品を作るのはダメ企業です。
ただし、今売れてるものがいつまでも売れるとは限りません。
生活スタイルや、素材技術の進歩、景気の動向によって消費者のニーズはころころと変わります。
「女心と秋の空と消費者ニーズ」です。

「今のニーズ」に応えつつ、「未来のニーズ」を創出

というわけで、企業は消費者の「今のニーズ」に的確に答えつつも、来るべき未来、どんな消費者ニーズがあるかを俊敏に察知し、タイミングよく提供できるスタンバイをする必要があります。時には、そのタイミングをただ待つのではなく、企業側から時流を起こす、ニーズそのものを作り出す提案をすることも必要です。なぜなら消費者は「こんな商品が欲しい!!」なーんて明確には分からないからです。多くの消費者は新しい商品が出たときに、「あぁ!こんなの待ってたよ、前から欲しかったんだ!!」なんて言うかも知れませんが、具現化して目の前に商品が出てきた時点で初めて、「自分がどんなものを欲しかったのか」が分かるケースが多いからです。
1.「消費者が、”今”欲しいと思っているもの」を的確にお届けできる商品群を用意する。
2.「消費者が、”欲しい”と思いそうなもの」を準備し、需要を創出する。

どちらも大切

この二つ、どちらが大切とかって話ではありません。どちらも大切です。「今の需要」に応えられないようでは、未来はありませんし、「未来の需要」を読めないようであれば、もちろんその先はありません。どちらかというと順番として「今」の方が大切かもしれませんが、短いスパンで消費者ニーズが変わる現在、、「未来の需要への対応」は「今」から準備しなければなりませんから、「今への対応」と「未来への準備」を並列で進めていく必要があります。

コンセプトは難しい

話が若干変わりますが、「コンセプト」って便利で難しい言葉です。使われる状況によって微妙に意味合いが異なりますが、ここでは企業商品の話になるので、「商品カテゴリ」や「商品ジャンル」のような感じで受け取っていただけると理解しやすかもしれません。人によっては違和感あるかもしれませんが、ご勘弁あれ。
さて、そのコンセプトですが、これが非常に難しい。言ってしまえば「大きなくくりでの考え方」なので、「どこかと被ってるとだめ」「コンセプト、って言った割には小さな考え方、影響力しか生まない、だとだめ」なわけ。商品開発という場におけるコンセプトの良し悪しは、それをを目にして耳にした時点で、「未来の生活スタイルまでも一変するような革新的なイメージ」をどれだけ多くの人間と共有できるかにかかっています。あまりに革新的すぎたり、出所がマイナー過ぎてバイラルが働きにくいケースだと共有、共感、伝播に若干時間が掛かる場合もありますが。
最近の分かりやすいところでいうと、「iPod」でしょうか(いや、もはや最近ではありませんね)。
これはAppleの製品ですが、消費者サイドと関連業界に与えた影響はとても大きいと言えます。

対消費者:
個人・法人パソコンではWindowsが圧倒的シェアを誇る中、ミュージックプレイヤーはAppleの端末が圧倒的シェアを獲得。それにつられて近年は(本当に)わずかではあるがMacintoshのシェアが上昇中。通常で考えると管理するマシンがWindowsなのに、iPod買おうなんて思わないはずなのに。

対デジタルサプライ業界:
iPod端末の普及によって、関連サードパーティー群が拡充。聞いたことないメーカーや色んな便利グッズが電気屋に溢れる。一社一種の商品群であれだけのコーナーができるなんてそうはない。かつてのソニー「ウオークマン」がそうであったように、デジタルオーディオプレイヤーの総称が「iPod」になってしまった。RioもiriverもCreativeもほとんど吹き飛んだといって良い。

音楽業界:Appleの関連サービス「iTunes」により、音楽流通のシステムが激変(そもそもの音楽不況やP2P問題もあるが)。リアルな物流システムを利用しての店頭販売であったCDから、ネットを介して1曲レベルでのダウンロード販売への移行のさきがけとなる。広大な土地を持つため物流システム構築にコストがかかり、また、新しものが大好きなアメリカと異なり、物流システムが整ってて、新し物には慎重な日本では若干勢いは少ないが、「音楽は所詮データである」という認識の割合が高い今の若者達にとっては、CDの現物そのものには高い価値は見出していないだろう。今後の家庭用プレイヤー動向や、ネットワークの更なるブロード化、ネット決済の浸透等によっては数年後にはCDもアナログレコードやLDの仲間入りを果たす可能性は大いにある(決してゼロにはならない)。

その他業界:iPodの普及で変化した消費者のライフスタイルにチャンスを見出す業界は多い。というか、全ての業界にチャンスはあるはず。出版業界ならデジタル書籍、ゲーム業界ならiPod touch用ゲーム、アパレル・ファッション業界でも衣服にiPod用ポケットを付けたものもすでにあるし、ファッション性の高い女性用ケースも多い。エルメスですらのっかる始末。飲食業界だってスタバがiTunesと提携し、店内でのiTunesサービスを提供していた(現在は縮小/中止)。そのほかの業界もPodCastやappストアで可能性は無限大。

それぞれを得意とする企業

話がおかしくなってきた。はい、新旧コンセプトの話にもどします。で、僕が言いたいのは、この「今あるコンセプトの伸展」と「新しいコンセプトの提案」、企業によって得手不得手ってのがあるなぁ、もしくは意図的にそうしてるなぁ、と感じるということ。
例えば、上に例に出したAppleや、ホンダ、ソニーあたりが、いつも新しいコンセプトを引っさげて、大々的にやって来る、って感じ。
■Appleの画期的
・オフィスに彩りを加え、家庭でも使ってみたいと消費者に思わせたカラフルな「iMacシリーズ」
・上記で述べた「iPod」
・驚きの薄さとCMで話題をさらった「macbook Air」

■ホンダの画期的
・リッター100キロという恐ろしい数字で、6000万台という生産台数を誇る「スーパーカブ」
・低床でスタイリッシュなデザインを引っさげ、ファミリー層以外へのミニバン訴求に成功した「オデッセイ」
・圧倒的な燃費性能で、それまで万年販売台数No.1のカローラを抜き去った「フィット」

■ソニーの画期的
・iPodの前に世界中の至る場所に音楽を届けた「ウォークマン」
・philips社との共同開発で音源のデジタル普及の礎となり、現在も第一線で活躍する「CD」
・なんだか動きがちょっとぎこちない。それがかわいい「AIBO」

などなど、なんというか、いつも「びっくりさせてくれる」「誰もやってないことをやる」という印象がある。

新しいものはいつも受け入れられるとは限らない

しかしその反面、新しく生み出したコンセプト提案、新規格、新カテゴリが消費者に受け入れられることなく、残念ながら消え行く商品群もまた多い。

■Appleの残念
Apple Pippin:Appleが売り出した家庭用ゲームハード機。色々とできたようだが、何をしたいか良く分からず市場から淘汰。出荷量よりも在庫廃棄した量のほうが多いという噂。
Apple Newton:Appleが生み出した世界初のPDA。しかし早すぎて、普及せぬまま撃沈。後にはシャープのザウルスやPalm、そしてソニーのCLIEが続く。現在はスマートフォンが主流となり、PDAというコンセプトすら聞かない。ちなみにPDAというのは当時のApple CEO、ジョン・スカリーの造語

■ホンダの残念
初代インサイト:2009年2月に大々的に発表されたインサイトは実は2代目。初代は1999年に発売され、脅威の35km/lという燃費を実現。しかし2シータークーペという消費者を激しく選ぶ仕様で営業的には失敗作。
エディックス:横3列、立2列の謎なシート配列の車。個人的にはエクステリアもコンセプトも好きなのだが、一般消費者は手を出しづらい設計。高い買い物だからあまり突飛なものはねぇ…。

■ソニーの残念
ベータマックス:松下のVHSと争ったソニーのビデオテープ規格。画質的にはこちらのほうがVHSよりも良かったが、録画時間の短さや、価格面などの営業面でVHSに敗れる。小学生の頃、同級生の家庭にあったのを見たきり、見たことが無い。
PSX:単なるコンテンツサーバなのか、PCなのか、ゲームなのかいまいち良く分からない。AppleのPippinに通じるものがある気がする。PS3かVAIOでいい気がする。

だたし、どれもただただ残念なわけではなく、こういったアイディアを商品化しようとするバイタリティがあるから次々に消費者に受け入れられる商品も生み出すことができるのだろう。また、上記のような商業的失敗例ですら、一部のコアユーザーをがっちりと掴み、マニア的に愛され続けるものもある。というか、結果としてニッチターゲットになったこそマニア心をくすぐる、という話も。もちろん経営的には大打撃必至。

これからも頑張れ

恐らく他のメーカーもそいういった新しいカテゴリ開発はしてるんだろう、ただ、開発段階で止めてしまい、商品化はしないだけ。なぜなら出して失敗したらイタいから。数字的に厳しいという経営判断が下れば挑戦は無し。
それは僕にはつまらない。人ごとだから言えるのだけど、やっぱり挑戦して欲しい。ホンダみたいにF1に挑んだり、ソニーみたいにトランジスタラジオ片手にアメリカに営業しかけにいったり、アップルみたいに、コアユーザーが喜びそうなへんてこりんな端末を出して欲しいのである。じゃないと当初予想を上回る市場の反応や、予期しない発見、失敗から次に生かす技術、マーケット発掘、そいういった喜びもまたないのだから。
そして彼らが発掘したコンセプトにあと乗りしてくるのはトヨタや、松下、microsoft。決まったフォーマット、すでにある市場の上で、シェアを生かした汎用品を作るのは上手い。それは決して悪いことではないと思う。
「必要な量の、必要な機能を、必要な価格で」提供できるのはすごい技術が必要だからだ。適当にコストカットしようとすると昔の中国製品や韓国製品、もしくは日本製品のように「安かろう、悪かろう」で終わる。
そうさせないためのクオリティーコントロールや、有名なジャストインタイム、いわゆる「カンバン方式」なのである。それはそれで一つのノウハウの結集であり、誰にもまねできないものでもある。だからこそのトヨタなのだ。

なんか、言いたいことを全部言い切ってしまったので尻切れトンボ的に終えることにしますが、
「今あるコンセプトの伸展」と「新しいコンセプトの提案」あなたはどちらが好きですか?

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